revisions リヴィジョンズ
『revisions リヴィジョンズ SEQ』
渋谷帰還後、TVアニメ12話エピローグで再会を果たす前日、
大介たちは、なにを想い、どう過ごしていたのか――?
ノベライズ著者・茗荷屋甚六が書き下ろす公式後日談(sequel)!
-
-
『revisions リヴィジョンズ SEQ』第7回(全7回) 著:木村航
07 それぞれの道
──2017/10/08(Sun.)/23:19
東京/リアルタイム
『待って兄さん! それって、兄さんがこれからどうするかって話?』
妹の書き込みに、ガイは苦笑した。
『そもそも俺たちは、その話をしていたはずだ。だいぶ回り道をしたが』
マリマリがスタンプをアップした。コミカルなキャラが「そういえばそうだったね!」とテヘペロしている。
『けっこう長くなったよね……』
『就寝時間を一時間以上もオーバーだ。明日はパフォーマンスに影響が出る』
『私が思ったとおりだった。ねえ大介。やっぱり今も備えてるんだね、あんたは』
『ああ』
答えた大介の簡潔なひと言に迷いはない。妹はさらに続ける。
『戦いは終わってないんだね』
『そうだ。いつ何があってもいいようにしておきたい』
大介の書き込みに気負った印象はなかった。日々の日課と同じように、すでに彼の中では戦いへの備えが当たり前のものとなっているのだろう。
いっぽうマリマリの書き込みは不安を隠せないようだった。無理もないが。
『また大変なことが起きちゃったりするのかな……』
『否定はできない。ごめん、マリマリ』
『ううん、いいの。だいじょうぶ。だって慶作も戦い続けてるんでしょう?』
『そうだ。いずれ迎えるだろう決着の場には、俺も立つことになる』
『今度は予言?』
『なんとでも言えよルウ。けど、これは必然だ。決着にはこの俺が必要なんだ』
『さっき兄さんもそれっぽいこと言ってたけど……?』
『そう考える理由がある』
ガイは告げた。なるべくシンプルに。
『大介の中には慶作の時間が流れていた。時間の外へ招かれた影響だ。その繋がりは、慶作にとっては命綱のような働きをするはずだ。たとえニコラスが時間の外で慶作を消し去ったとしても、慶作の一部は大介の中に自分の記憶として残るだろう。ただの記憶ではなく、慶作が生きた時間そのものが大介の中に在ったからだ』
『てことは、ニコラスが本気で決着をつけるには、大介も倒す必要があるってこと?』
『正確に言えば、この時間を生きる大介だ。俺たちが存在しているカオス軌道上で、皆と同じ時間を生き抜いてきた、たったひとりの大介』
『慶作との絆を保っているのは、私たちの大介だけなんだね……!』
『ニコラスは過去を書き換えようとするんじゃない?』
『慶作だって好きにさせはしないさ』
もちろん話はそう単純ではない。過去に干渉しようとするのはニコラスばかりではない。リヴィジョンズが、さらにはアーヴが、それぞれの理念と利害に基づいてこれからも暗躍と工作を続けるだろう。時間跳躍の術を持たぬ普通の人間にとっては実相をうかがい知れない戦いが繰り広げられるはずだ。その闘争に、果たして終わりはあるのか。
とはいえ──
『むろん俺も、放っておくつもりはない』
『じゃあ兄さん、決めたんだね!』
『ああ。この俺に何ができるかはわからないが、慶作を助けるために全力を尽くしたい。そしてそのためには、大介。おまえのそばで共に歩むことになるだろう。まずは復学。その後の進路は別れても、いつでも会えるようにしよう。何があっても、すぐに駆けつけられるように』
たとえどれほど険しい道でも──
『俺たちは仲間を見捨てない。大介、おまえが誓ったあの言葉の通りに、俺は生きよう』
『ありがとう』
答えはただそれだけだった。
けれど、そのひとことに込められたものの重みを、誰もがずっしりと受け止めたに違いない。
『私も決めた!』
その書き込みと共に、自室前の廊下が騒がしくなった。荒々しい足音。と認識したのも束の間、ノックもなしに扉が開かれた。
ルウが立っていた。上気した頬に大粒の涙がぽろぽろっとこぼれたかと思うと、次の瞬間ガイは妹のしなやかな体に組み伏せられていた。
「ずっと一緒だから! 兄さんと、マリマリと、大介のバカと、あと慶作と! ずーっと一緒にいてあげるから!」
「おまえなぁ……」
溜息をついてガイは、左手で妹の頭をぽんぽんと叩いた。そして右手でスマホを操作し、短い報告をアップした。
* * *
『妹も一緒だそうだ』
その書き込みを、マリマリは涙を拭って確認し、ゆっくりと打ち込んだ。
『よかった。またみんな一緒にいられるね』
『マリマリには、またつらい思いをさせてしまうかもしれないけど……』
『だから、それはいいの。慶作のためだもん。それに……』
『ん?』
『なんでもない』
微笑んでマリマリは、ひざ掛けを取って伸びをする。体がぽかぽかしている。不思議だ。戦いはまだ終わっておらず、いつ恐ろしいことが起こるかもしれないのに、不安はなかった。寛いでいるとさえ言っていい。
(怖くないよ、私。大介と一緒なら、きっとだいじょうぶ)
そう、それに──
『ミロにも知らせなきゃだね』
『ああ』
* * *
『連絡がつくのか?』ガイが尋ねた。
『いや。けど心配してない』
レスを送信し、ルウの突っ込みを待ったが反応はない。ちょっと拍子抜けだなと思ったら、不意に大あくびが出た。心地よい疲れが大介を柔らかく包み込んでいた。
『どういうことだ? ミロもこの状況を把握しているのか?』
『さあな。けど、ミロは今も俺たちの時間を共に生きているはずだ。必要があれば必ず会えるだろう』
再びニコラスとの戦いが始まるとしたら、きっとミロは現れる。
ならば、いずれは慶作とも──
『備えよう、その時のために。おやすみ、みんな』
『ああ。おやすみ』
『また明日ね!』
なんて久しぶりにその言葉を受け止めただろう。しかもこれほど満ち足りた気持ちで。
(また明日、か)
こんなに楽しみに感じたことはない。
──その夜も夢を見た。このところ繰り返し見る夢だった。
以前もこんなことがあった。繰り返しひとつの夢ばかり見ていたあの頃。人が死ぬ場面。悪夢でしかないはず。なのに、俺にとってかけがえのない時でもあった。使命と運命を与えられた、七年前の夏の夜の場面だったから。
今はもうあの夢は見ない。
代わりに繰り返されるようになったのは再会の場面だ。
かけがえのない仲間たち。どこにいるかもわからないけれど、いつか必ず巡り逢うだろう、俺の運命と繋がったふたり。
ふたりは微笑んで、俺のほうへ手を差し伸べる。
その手を、俺はがっちりと握り締める。
今はまだ目覚めと共に、はかなく消えてしまうけれど──
(必ず仲間に繋いでやる)
誓う。これが俺の使命で運命だ。
(了――『revisions リヴィジョンズ』の新たな物語はゲームへ!)
こちらの『revisions リヴィジョンズ SEQ』は、
メールマガジン「revimaga リヴィマガ」にて連載されていた書き下ろし小説となります。