NOVEL

revisions リヴィジョンズ

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『revisions リヴィジョンズ SEQ』
渋谷帰還後、TVアニメ12話エピローグで再会を果たす前日、
大介たちは、なにを想い、どう過ごしていたのか――?
ノベライズ著者・茗荷屋甚六が書き下ろす公式後日談(sequel)!

『revisions リヴィジョンズ SEQ』第4回(全7回) 著:木村航

    04 ガイ

 ──2017/10/08(Sun.)/21:57
 東京都港区・シュタイナー氏宅・ガイ自室

『兄さん、何か知ってるの?』ルウが書き込んだ。
 ガイには少し意外だった。妹はとっくに承知しているものとばかり思っていたのだ。
『慶作の荷物なら泉海さんが預かっているはずだが、聞いてないか』
『初耳!』
『誰から聞いた?』問い返す大介の書き込みが喧嘩腰に感じられ、ガイは苦笑する。
『泉海さんから直接言われたが』
『いつ?』
『こっちへ戻った日だ。移送される前にたまたま会えて、その時に』
『なんでおまえにだけ話すんだ?』
(相変わらずだなあ)
 大介にはいまだに対抗意識が残っているのだろうか。だとするといささか面倒だ。そう思った直後、大介が付け足した。
『おまえはリーダーだ。俺たちは仲間だ。今でもそうだろ?』
 不覚にも少し心が動いた。ガイは急いで書き込む。
『情報共有を怠ったのは俺の責任だ。悪かった。ただ、泉海さんが俺だけを選んで伝えたというのは誤解だ。あの日の状況では全員に話を伝える余裕がなかっただけだろう』
『わかった。それならいい』
『よくない!』ルウだ。『兄さん、なんで黙ってるの。私、同じ家にいるんだよ。なのに何も言ってくれないなんてひどい。あれからもう三ヶ月も経ってるのに!』
『すまない』
 すぐに書き込んで、その先をどう続けたものか少し悩んだ。伝えたいことはある。共有しなければならない情報も、確認したい事項も、以前からいくつも抱えている。だがアプリを介して話は通じるかどうか。音声通話を使ってもいいが、かえってこじれそうな恐れもあるし、なにより通信内容は筒抜けと考えるべきだ。それはアプリの会話でも同じことで、だから発言は控えてきた。
 とはいえ黙っているわけにもいかない。
『明日、会ってからみんなに謝る。それで許してくれないか』
『俺は気にしてない』大介が即答した。『それに、ガイはもう謝っただろ』
『だよね』マリマリの反応も早い。『許すとか許さないとか、そういうのやめよ?』
『やだ』ルウだ。『私、納得してないから』
 ガイは溜息をつき、スマホから外した視線を遊ばせた。
 今ガイが寝そべっているベッドの右手、壁の向こうに妹はいて、スマホを睨んでいるだろう。会いに行こうか。彼はパジャマ代わりの部屋着姿だし、妹もこだわりはすまい。ノックすれば応えるだろうし、扉も開かれるだろう。けれど、いざ面と向かって話しあうとなると、意思を伝えるのはそう簡単なこととは思えない。それに何より、かれらふたりだけで納得しても無意味だ。
 仲間みんなが一緒でなければいけない。そうしなければきっと誤解や気持ちのすれ違いが起こるだろう。
 スマホに眼を戻す。アイコン写真は去年の秋、試合の後にサッカー部のチームメイト皆で代わるがわる撮りあったうちの一枚。撮ったのは妹だ。未来を疑っていなかった頃の笑顔。幸福で、怖いものなしで、どうしようもなく幼い。
 覚悟を決めて書き込む。妹への、そして仲間たちへの問いかけを。
『どうすれば許してもらえる?』
『ふーん。悪いのは兄さんだって自覚はあるんだ』
『おまえは気が済めばすぐ忘れるタイプだ。なのにまだ怒ってる。つまり、おまえの怒りの原因はまだ解決してない』
『そこまでわかってるんだ。なら当ててみれば? 私が何に怒ってるのか』
 見当はついている。妹が欲しいのは謝罪ではない。答えだ。だがそれはガイ自身にも簡単には出せないことだった。
 潮時ではある。結論を出すにはきっかけが必要で、今がその機会だ。
『ルウ。おまえが聞きたいのは、俺がこの先どうするつもりなのかだ。そうだろう?』
 わずかな間があった。
『兄さんって時々すっごいむかつく』
 だろうな。すまない。素直にそう思った。しかしそんなことはわざわざ書き込むまでもない。
 今伝えるべきは、これからのことだ。
『本当は明日、皆と顔を合わせてから話そうと思っていた』
 明日──そんな日が本当に来るかどうかは誰にもわからない。今この瞬間にも運命は断ち切られるかもしれない。渋谷転送を経験して誰もが思い知ったはずのその事実を、ふと気がつけば忘れがちになっている。ガイでさえも。
(すべてを疑え、か)
 繰り返す日常に身を委ね生きるのはある意味で救いでもあるだろう。流されながらも明日は来ると信じられるのだから。しかし、これからは許されない。彼に託されたのは、そのような生き方だ。
『今から、それを書く。俺の、俺たちの今後に関わることだ。つきあってくれるか』
『就寝時間だ』大介が書き込んだ。
 時刻は22時を回ったばかり。八時間睡眠厳守の日課をかたくなに貫き通す生き方を、愚かなことと蔑む気持ちはもうない。むしろ敬意をおぼえるほどだ。大介はすでにゆく道を選び、進み続けているのだから。
『けど』おそらく、やつはにやりと笑っただろう。『今夜は特別だ』
『悪いな。少し長くなるだろうが』
『私もつきあうよ! 夜更かしは平気だし、気になるもん』
 マリマリの書き込みにはスタンプが添えられていた。期待と不安に眼を輝かせるキャラの表情は、今の彼女そのものなのだろう。
 ルウは率直だ。短く促した。
『始めて』
 そのひとことを、妹が帰還以来ずっと切り出しかねていたことには気づいていた。
 ルウばかりではあるまい。大介もマリマリも、ガイに問い質したかったはずだ。
 この先どうする? 学校へは? 戻るのか、それとも?
 これからも一緒にいられるのか?
『まず事実を伝えておく。俺自身の状況だ』
 そう前置きして、簡潔に告げる。
『プロサッカークラブからの勧誘の話は皆も噂で聞いていると思う。あれは事実だ。複数の話が来ていた。だがすべて白紙になった。従って今のところ進路は未定。以上が確定している現況だ』
 いきさつはルウも知っている。だからこそ妹は尋ねられなかったのだろう。揺るぎなかったはずの将来が消え失せたばかりの相手に、それを問うのは酷な話だ。
『ここから先は、これからどうするかの話だ』
『考えは決まったのか』大介が尋ねた。
『いや。俺ひとりでは決められない部分もある。皆の意見を聞かせて欲しい』
『俺でよければ』
『頼む』
『どうすればいいの?』これは妹だ。
 束の間ためらった。が、はっきり書くことにした。
『ルウ、おまえには難しいかもしれないが、やってみてくれるか』
『だから何を?』
『思い出して欲しいんだ。もう一度、七年前の夏の、あの夜のことを』

(続く)


こちらの『revisions リヴィジョンズ SEQ』は、
メールマガジン「revimaga リヴィマガ」にて連載されていた書き下ろし小説となります。